ほのぼの切ないおすすめ小説●『気をつけ、礼。』(重松 清)
僕は、あの頃の先生より歳をとった―それでも、先生はずっと、僕の先生だった。
受験の役には立たなかったし、何かを教わったんだということにさえ、若いうちは気づかなかった。
オトナになってからわかった…
画家になる夢に破れた美術教師、ニール・ヤングを教えてくれた物理の先生、怖いけど本当は優しい保健室のおばちゃん。
教師と教え子との、懐かしく、ちょっと寂しく、決して失われない物語。
時が流れること、生きていくことの切なさを、やさしく包みこむ全六篇。
教師と生徒の関係を描いた短編集。
教師って完璧ではない。
聖人君子でもないし、神様でもない。
この作品に出てくる教師はどれもいい意味でも悪い意味でも 一人の人間である。
責めることは出来ないけれど、 もう少しどうにかならないものか・・・と思う教師もいる。
でも、振り返ったときに生徒と生徒の関係はどれも悪い思い出として残っていない。
もちろん現実ではそういうことばかりではないけれど、自分の経験を振り返ってみても生徒のときはすごく嫌いだった先生でも今思い出すとなぜか許してしまえたりしている。
月日はいろんな意味で寛容なんだな。
この本の中で一番心に残ったフレーズ。
「センセ、オトナにはなして先生がおらんのでしょう。
先生なしで生きていかんといけんのをオトナいうんでしょうか」
忌野清志郎が『RCサクセション』時代に歌っていた『僕の好きな先生』を小説にしたようなものです。
大事件も起こらないし、ヒーローもヒロインもいないけれど、「いい話しだな・・・・」と思える心暖まる短編集。
学校の先生って、実は人生を左右するほどの存在だけど、給料は驚くほど安いよな。(僕は教師じゃないけれど)。
幼稚園や小学校の低学年ほど、「いい先生」が必要なので、もっと給料を上げて欲しい、と、これは本書には関係の無い話し。
『気をつけ、礼。』・・・・・先生のいない「オトナ」にお勧めの一冊。
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宮部 みゆきのお勧め本★『おそろし 三島屋変調百物語事始』
17歳のおちかは、実家で起きたある事件をきっかけに、ぴたりと他人に心を閉ざしてしまった。
ふさぎ込む日々を、江戸で三島屋という店を構える叔父夫婦のもとに身を寄せ、慣れないながら黙々と働くことでやり過ごしている。
そんなある日、叔父・伊兵衛はおちかを呼ぶと、これから訪ねてくるという客の対応を任せて出かけてしまう。
おそるおそる客と会ったおちかは、次第にその話に引き込まれていく。
いつしか次々に訪れる人々の話は、おちかの心を少しずつ溶かし始めて…哀切にして不可思議。
宮部みゆきの「百物語」、ここに始まる。
江戸の神田三島町の一角に店を構える袋物屋の三島屋。
訳あって、その店の主人である叔父夫婦のもとに預けられ、働くことになった十七歳のちかが、店の「黒白の間」で、そこを訪れる人たちの不思議で怪しい話を聞いてゆく。
不思議で怪しい、切なさと怖さ、恨みと憎しみ、割り切れぬ思いなどが絡まり合ってゆく。
曰く、変調百物語。
その聞き手となった主人公のちかが、語り手となる人たちから百物語の話を聞いていくことで、語り手とそこに関わる人たちの呪いを浄化し、それとともに、自らが負った災厄の根っこを見つめ、逃げずに相対してゆくようになるのですね。
著者の『あかんべえ』と好一対の、健気な少女と幽霊あるいは幽鬼たちが心を触れ合わせ、それぞれに浄化、変容、再生していく物語。
第一話「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」の話から、「お! これは、読ませるじゃないか」と、話の中に引っ張り込まれ、「凶宅」「邪恋」「魔鏡」と読み進めていくうちに、いつしか夢中で読みふけっていました。
とりわけ、「魔鏡」「家鳴り(いえなり)」と続く終盤、物語の第四コーナーの一瀉千里、怒涛の勢いは圧巻。
「魔鏡」に出てくる美しい登場人物は、殊に印象強烈。
怖かったなあ。
上村松園の『焔(ほのお)』という絵に描かれた女性がゆくりなくも思い出されまして、ぞおっとしました。
愛する心と憎む心、気遣う心と悪意の心、そうした人の思いというのは表裏一体、紙一重のところにあるのだなあと、本書をひもといていくうちに、しみじみ感じ入ってしまいましたねぇ。
登場人物の伊兵衛の言う、<何が白で何が黒かということは、実はとても曖昧なのだよ>との言葉が、ことのほか印象深く、忘れられません。
蛇足ながら、「最終話 家鳴り」の中、ある人物が言う「姉さんが来た、姉さんが来た」という台詞のことで。
ここはおそらく、著者の敬愛する岡本綺堂『半七捕物帳』の記念すべき第一話「お文(ふみ)の魂」を念頭に置いています。
本書をはじめ、宮部さんの江戸時代ものの小説の雰囲気、
なかでも怪しの雰囲気には、岡本綺堂の『半七捕物帳』『三浦老人昔話』『青蛙堂鬼談(せいあどうきだん)』などの作品に非常に通じるものがあります。
未読の方は、そちらもぜひ、お読みになることをおすすめいたします。
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流れゆく時を忘れたい時にお勧めの本★『テンペスト』(池上 永一 )
美と教養と見栄と意地が溢れる珊瑚礁の五百年王国は悩んでいた。
少女まづるは憧れの王府を救おうと宦官と偽り行政官になって大活躍。
しかし待ち受けていたのは島流しの刑だった――。
見せ場満載、桁外れの面白さ!
珊瑚礁王国の美少女・真鶴は性を偽り、宦官になる―。
前人未踏のノンストップ人生劇場。
おもしろかった、物凄く。
ただし、これを読む時には、ライトノベルだ!と思って、エンターテイメントとして割り切って読まないと、肩透かしを食らってしまう。
僕は、「そここそがいいんじゃあないか!」と思うけれども、歴史大河小説を期待すると、その「軽さ」とエンタメ重視の姿勢に、つまらなく感じてしまう人もいるだろう。
けれども、こういう味付けをしないで、だれが、琉球王国の歴史なんて言うマイナーな部分を小説化してくれるだろうか?、
そういう意味では、著者の戦略と功績は大きいと思う。
もちろんある程度戯画化(カリカチャアライズ)されているとしても、なるほど、琉球王国というのはそういう存在で、そういう「美」があったのか!と思わせる、知らしめさせる物語世界の美しさには、感動します。
ライトノベルの萌え小説として「も」読める、というところにこの小説の素晴らしさがあると僕は思います。
おもしろいこと、おもしろいこと。
この作家の知識の豊富さと、 その史実をベースにした創造力に脱帽。
半端じゃない。
昔の『ベルバラ』っぽくて、とてもいい味を出している。
エンターテイメントとして「時間を忘れて」読むふける、という時間が欲しい方にはぴったりです。
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オススメの大冒険小説●『虎口からの脱出』(景山 民夫)
景山民夫は大好きな作家、エッセイストだった。
最後は事故死(?)的なガス中毒で亡くなった。
エッセイも小説も大好きだった。
80年代、ビートたけし達とテレビのバラエティー番組でふざけていたイメージが強かった景山民夫。
これがもう、面白いのなんの。
国内の冒険小説では久しぶりに、寝る間も惜しんで一気読みしてしまった。
ストーリー、テンポ、情景描写、人物設定すべてが文句無し。
手に汗握る興奮の世界へ読者を誘う冒険小説の大傑作。
まだまだこれから、という歳でこの世を去ってしまった事が残念で仕方ない。
もし、今でも生きていたら、どれ程面白い作品を書き残していただろうか。
そう思わずにはいられない。
本書は「冒険小説」だ。
時は昭和3年、所は奉天。
一瞬の爆風と共に張作霖暗殺さる。
唯一の目撃者である少女、麗華を追って関東軍が立上がる。
奉天軍も動き始める。
そして国民党軍も…。
上海まで1600キロ、期限は3日。
日中全軍を敵に回した脱出行、車輪よ駆けろ!
待望の書下ろし長編冒険小説。
ページをめくるのがもったいないほど面白い、読んでいる途中で、まだ残っているページがこんなにあるのか、と先の展開が嬉しくなる。
そんなときこそ読書の至福の時。
僕にとってこの作品はまさにそういう作品でした。
まるでハリウッドの一級のエンターテイメント映画を見ているかのよう。
古本屋で100円で売られているのをみて、嬉しいやら、悲しいやら。
「読まずに死ねるか!」です。
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